やまねこ登山録~人生詰んでる人が富士山頂上を目指すだけの話のその後~

仕事(ブラック)にもプライベート(独身ボッチ)にも負けず…登山素人ながら富士山に登り終え、その後の登山日記。まだ見ぬ絶景とネコを求めて、関西を中心にふらふらといろんな所へ行っています

白山登山  ~Time after time~

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  明るい月が出ている。午後18時。季節的に未だまだ夕暮れ時の時間なのに、高い山の陰に太陽が隠れると辺りはたちまち闇の中へと落ちた。関西からおよそ5時間……。山奥の高速出口を実際、たどりつくまでこんな所に車が停まれる広い駐車場があるなんて思いもしなかった。

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 緊急事態宣言がとりあえず解除されるのは、この次の週だった。感染状況はかなり収まっているが、本当はまだ県をまたいだ移動をしてはいけない……。だが、今日は敢えてここまでやって来た。車を使い一人で……PA以外にはどこにも寄っていない。当然、登山中も他のパーティーとは充分に距離を取って移動する事を守った登山だったと書いておきたい。

 

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 ここは途中の南條っていうPA福井県は恐竜の化石が良くとれるらしく、ベンチに座ろうとしたら、彼が気さくに迎えてくれる……。いや、死ぬほどビクっとして周りに変な目で見られるいつものあれ。

 

 急に休みがとれた。いや。正確には急にではない。この半年、登山をほとんどしていなかったのは、別にコロナのせいだけではないのだ。新しい部署にどうしても合わず、本気で転職を考えていた。だがこのご時世、今の仕事を辞める決心がつかず、ひとまずこの忙しい仕事をしながら色々転職活動を試みてみた。しかし、「朝から晩遅くまでの拘束。平日に休めない」この条件での就活はとても苦しく…。またコロナ禍にあって、いけそうな募集は殆どない。面接まで行ける事がまれだった……。

 あまり詳しくは書きたくないのだが、まあ結局失敗に失敗を重ね続けて、あの第5波が始まり……。ウチの会社も無事クラスター発生。本気で会社を辞めたいレベルの忙しさが襲ってきたうえ、就活する時間が完全に無くなった時点で一回、俺は転職サイトを見る日課を止めにした。

 死んだ魚のような目になって働く事半月……。上司から声を掛けられる。

 

「お前。リフレッシュ休暇、9月までだぞ。なんで、まだ取ってないの? 」

 

 ああーー。覚えはあった。勤続何年目かで貰える有給とは別の休みってあれか。確か今年とる権利があり期限までに取得するよう言われていた。

 ただ、自分なりに本気で10月までに会社を辞める気でいたから、取得する事をすっかり忘れていた。そして、正直、この一か月、「なんでまだとってないの? 」って言葉に目の横がぴくぴく痙攣する程のムカつきを感じるレベルの忙しさだった事に非常にムカついた俺は迷わずこう言っていた。

 

「要りません。辞退します。」

 

 その後、案の定人事部から御叱りの電話がかかってきて、俺はさらにこの部署の居心地が悪くなる事を分かったうえで、休暇を取ることになった。

 

 しかし、このコロナ禍の中、休みだけとってもどこにもいけない。県をまたいだ移動はできない。そして、山小屋はテント場も含めて完全予約制……、ホテルに泊まったりするのも避けないといけない。やはり、家の周りで今の死にそうな目をしたまま休み明けに始まる地獄におびえながら無駄に長い休みを終える運命のようだ。しかし、休みを目前にして予想外の事態が起きる。そう、第五波の感染者が急速に収束した事である。そして、10月からの宣言解除が決まる。

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 一先ず摩耶山に登ってみる。 
 どこか、山へ行きたい。遠くの山が良い。ドキドキしながら登山口に立ち、地図だけを頼りにまだ見た事の無い道をただ歩く。薄い空気に息をつかせながら、目に入る汗と必死に戦いながら……、頂上に辿り着き、今までの人生で見た事ないような絶景が見たい。ふと頭にそんな思いがよぎる。

 

 しかし……。感染者が減ったとはいえ、宣言中。形だけでも、一日で登って降りて来れて、移動は車のみ。感染対策を充分にしないと……。

 行きたい山が見えてこない。単純にコロナのせいだけではない。長い自粛生活の中、すっかり登山から離れていた。いや、人生の苦しさ故に見てみぬフリをしていたのかもしれない。心が腐っていやがる故だ。

 

 いや、でも……、いや、だからこそ……。今、山に登らないと……。もう一回、登山を始めよう。富士山に登ったあの日のように。何も見つからないけど何かが見つかるかもしれない。

 

 行く山は以外とすぐに見つかった。今回登るのは「白山」。

 「富士山」「立山」と並び、日本三大霊山の一つ。古くから山岳信仰の対象となっている名山である。何より景色が素晴らしいらしい。さらに、先の感染対策条件に加え、岩場や鎖場は少なく(登ったコースには一か所もなかった)この、腐り切った心と体でもなんとか登れるかもしれない……という、条件を満たしてくれる高い山がここだけだったのだ。

 

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 そんなわけで、こちらも久々、愛車のシエン太を駆って神戸を昼に出発。ひたすら車を走らせる事、5時間。やばい。すでに疲れた。俺は最初の登山口市ノ瀬にたどりつく。ここまで1時間ほどひたすら山道の狭い道を走って来た。それにしては信じられない広いスペースの駐車場がある。今は登山シーズン。普段はここから二つ目の登山口である別当出合という所まで登山バスに乗り行くのだが、今日は平日。マイカーでの乗り入れが可能だ。ここから、さらに20分細い山道を行く別当出合には250台近く車を止められるそうだ。本当は夜のうちに行っても良かったのだが、偶然ここにいた、おっさんが、別当出合の駐車場はトイレまで少々距離があるらしく車中泊するなら、この市ノ瀬がいいよって事を聞いた。

 そんなわけで、山奥の駐車場に数台の車中泊車とともに、夜を超す事になった。

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 寝袋とマットは持ってきたが、やはり寝心地は良くない……っていうか、もう10月近い夜の山なのに、暑くて寝袋はいらんかった……。いろんな事を考える……。仕事の事、今後の人生の事その他いろいろ……。いつもは不安でたまらなくなるが、山の中で考えるのは決して嫌ではない。なんというか、自分が社会から離れた誰でもない一人の人間として客観的に見える。そんな感触だ。いつしか山にいく度にそんな思いを感じるようになっていた。まだ、進めるよな。まだ登れるよな……。なんの根拠も無いけれど、そんな風に思える。

 

 そんなわけで、明るくなる直前、午前4時ごろを狙って出発。本当はもっとゆっくりでもいいのだが、暗くなってからもどんどん車が別当出合目指して登っていってたので、あまり遅いと車止めれないかな……と、不安に思い出発した。

 

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 そんな訳で到着。本当に駐車場から別当出合のビジターセンターまでかなりの距離があり、ここまで来てたら大変だった。

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 久々のガチ登山装備に身を包み……意気揚々と山道へ……しかし……

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 あまりのしんどさにピンボケする。もう、ここで足がパンパン、息がゼエゼエ。だめだ。さっきは比喩で言ったけど、本当に体が腐ってやがる。最初のチェックポイントである避難小屋。屋根の上のハシゴは、冬になるとここまで雪が来るって事かな?

 もう、キツイ。帰りたい。そう思いながらも、ここで帰ったら多分二度と登山に来れないと自分を鼓舞してなんとか歩を進める。

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 おお。もう紅葉が始まってる……。天気はあまり良く無いけど、ようやく登山に来た感じがしてくる。しかし、既に標高2000は行ってるはずなのに、足場がしっかり石の階段で固められていて登りやすい。さすがは白山。

 そうそう、途中に白山の湧き水を汲める所があった。

 

「飲 めー!! お 前 が 飲 め ー ー !!」

 

 って、信長の弟が白山の水だといって信長に持ってきた毒を、逆に信長が弟に飲ませるシーン……。「麒麟が来る」ごっこしたかった。けど、下山まで忘れてた。

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段々と標高が上がってくる。正直、もう体力は限界をとうに超えているしかし……。

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 美しい湿原、弥陀ヶ原を通る。天気がよければもっと色が良かったんだけどね。この世のものとは思えない美しさ。白山の信仰の対象になるのも良く解ります。ここまでくると、標高による空気の薄さも相まって頭がフラフラする。もう高山病一歩手前なのかもしれない。必死に深呼吸を繰り返し、呼吸を落ち着ける。2700mくらいで息が切れるとは……情けない。

 

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 頂上へアタックする前線基地、室堂ビジターセンターへ到着。さすがに少し休む事にした。本当はマスクをした方が良いのだが、空気の薄さなのか、激しい運動のせいなのか、マスクをしたらまともな呼吸が出来なくなる。しかたなく建物の中には入らず、周りと距離をとって大人しくしている。

しかし……山頂は残念ながら霧の中だ。今回。前泊の日帰りを予定している為、11時には下山を始めたい。この時点で9時。

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 9時半まで待ったが、ガスは晴れず……やむを得ず山頂へアタック。山頂まではさほど距離は無いのだが、空気が薄く、ちょっと歩いたら息が切れる。立ち止り立ち止り……なんとか歩く。しかし、平日だからか、なんかアスリートみたいな登山家が多い。登山口からここまで。まるでスキップでもするように、どんどんと追い越されていく。まわりが凄いのではなく自分の足が年のせいで衰えているのは? という疑問は見てみぬふりをする俺。

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 途中の高天原。確かに神様もいそうな所だ。

 

 そして……たどり着いた……

 

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 白山最高峰、御前峰の頂上だ。ガスガスだ。景色は見えない。

 

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 こんなものを見る為にここまで来たのか? 

 そんな思いは微塵も無かった。頂上の標識のを前に写真を撮ろうとした時、自然に涙があふれて来た。

 

 良かった……来れた……。今までたくさんの山の頂上でたくさんの絶景を見て来た。それに比べたら酷い景色だ。でも……。

 ありがとう。まだ戦える。まだ頑張れるから……

 

 誰に礼を言ったのか、自分でもわからない。でも来てよかった。それだけは確かだ。

 

 そんな謙虚な感想が良かったのか、相変わらずの厨二病に神が同情してくれたのか……

 

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 下山時刻まで粘る事小一時間。ちょっとだけの間ガスがちょっとだけ晴れた。

 良い山だよ。白山。今の俺にはもったいなかった。

 絶対また来るさ。

 

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 室堂まで戻って来た。もう足も、息も限界だが、休み前に最低だった気分は少し晴れていたようだ。不思議なもので、それはまるでこの日の天気のようだった。

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 最後まで、ガスの中から姿を現した白山を見る事は出来なかった。

 でもよい休暇だったと思う。

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 別当出合に戻った時のYAMAP。途中落としてたんで、正確ではないけど、よく頑張ったよ。本当。ひたすらの下りでもう膝が限界。眠さもMAX。

 

 しかし、俺は忘れていた。ここから、5時間……車を運転して神戸まで帰らなくてはならない事を……。

 

 ま、久々の登山日記なんで、ちょっとあっさりと……


白山登山記 終