以下、敗残兵が見た景色…
高標高のせいかビールの酔いが恐ろしい速さで回る…
昨日のジムビームはそうでも無かったのに…。
少しすると、涸沢の気温が急激に落ちてきた。
雲が谷の下から登ってきて、また景色は見えなくなる…
この時の雲海も結構な景色だったのですが
もう写真を撮る気力もなくテントで寝てました。
少しすると激しい頭痛を感じ、やむを得ずリンクルアイビーを飲む(頭痛は持病なのです
だが、寒気が収まらず、とうとうたまらずに、まだ夕方前だと言うのに寝袋に入る。
手足が氷のように冷たい…これ、あれちゃうのん。風邪ひいて熱が出る手前の症状…
なんだよ、今回の山行…最後までボロボロじゃねーか…
あー、あかん。もう動くのも辛ー
少し昼寝して目が覚めると、薬が効いたのか、頭痛は収まっている。
もそもそと、這い出し、暗い道を山小屋へ…
(後になって考えると、この時の症状…雲が上がってきてたって事は相当、気圧が下がってたって所で、寝不足で疲労で酒飲んで…って…かなり軽度な高山病だったのではないか?って思います。役満で高山病になりやすい事してたし…この日は3000m付近から、逆に高度を下げていたので、高山病になるなんて思いもしてなかったんですがね…そういうのあんまり関係なく、なるときは成るのが高山病らしい。ま、すぐ治ったし今から確認する術は無いのですが)
で、なぜ、山小屋へ行くのかというと…
じゃーん。
山小屋めしー
少し値段はするんですが、予約をしておくと、山小屋で夕飯を食べる事も可能なんです。
まあ、山小屋なんで、内容は御覧の通りなんですが…(いや、美味かったすよ
久々の人間的な食事…おかわり自由なごはんと味噌汁。
何よりあったかいお茶と暖房の効いた室内で出来る食事
これは本当に天国でした。
外はすっかり極寒地獄でしたが、手足に体温は戻り、テントに戻ってからも、この日は快適な気分で眠れました。
ああ、テントが倒れるのを気にせず眠れるって素晴らしい。
この日は早めに就寝する事を選ぶ…
とは言ったものの…時間はまだまだ早い…
横になっていると、この日の事とか、思い出して、残念で情けなくて恥ずかしくて…なんか、涙が出てくる
山登りに失敗して涙するおっさん…なんて、滑稽な図式だ…
っていうか、なんて酷い…なんてひどい山行をやってしまったんだろう。俺…
ーーーよう、酷い顔してんじゃねえか…
あ、穂高の神様…全く出てきてくれないと思ったら、こんな時に
ーーー随分な目に会ったみたいだな
ええ…おかげ様でね。さんざんですよ
ーーーおかげ様?お前のせいだろう?
分かってますよ…
ーーー解ってねえだろ?まず、今回は台風が来たのに上高地に来たのがそもそもの間違いだ
何、分析始めてるんですか?
ーーー実質、不安だ不安だ言ってるだけで、結局天候任せの行き当たりばったり、何も対策しないで、涸沢でテントを立てちまった。
う……
ーーー嵐が来たら、結局何もできず…朝まで起きて無駄に体力使っただけ…
ーーーそのまま大人しくしとけばいいのに、疲労と睡眠不足をおして、山に登ってあわや救助隊出動レベルの大失態…
ーーー加えて、今の高山病?的な何か…
ーーー危険予測が不十分だ。リスクファクターの発見が遅く回避になんの策も無い。トラブルシューティングも中途半端…
なんで、意識高い系の単語で俺をディスるの?
ーーー普段の仕事っぷりと一緒だな。所詮お前にとって山なんてそんなものなんだよ…
ちくしょう……自分の妄想の中での会話なのに、まったく言い返せない、穂高の神様の俺批判…
ーーーまあ、山の怖さを知って初めて一人前だ。そういう意味で今回はいい経験できたんじゃねーか?
その手の慰めは、結構。
また、きっと俺は山には登る。
でも帰ったら、ちょっと、ぬるい山行を企画しようかな…
しばらくは山を楽しむ登山がしたいなあ
本当に今回はサンザンやった
ーーーやれやれ…
夜が明ける…
恐ろしく寒い
嵐の間はまだ気温は高かったんだよな…
しかし、寒さを我慢してテントから出てくる。
今日は、朝一でテントを撤収して上高地まで戻らないといけない…
穂高のモルゲンロートなるものが、昨日は天気が悪くて見れなかったが
今日は見えるかもしれない。
そんな淡い期待を持って、朝飯を食ってからテントを少しずつ撤去し始める。
うわ…夜露が氷になってはテントの裏側に張り付いとる…
こら、帰ってから、メンテナンスが大変やな…
って感じでモルゲンロートを待ってたのですが…
あれ?完全に明るくなっちゃったんだけど…モルゲンロートって朝焼けの事じゃないの?もう日の出の時刻もとっくに過ぎてるんですが?
ひょっとして、今日は、見れない日やったのか?
もう、どこまで、酷い山行なんだよ。今回…
しかし、その時----
山が
ゆっくりと
輝きだした…
こういう景色を見るといつも、思う。
写真じゃとてもこの感動を表現しきれない…
本当に悔しい…
山の頂上が赤く…輝いてる…
四方を山に囲まれたこのカール。日の出時刻を過ぎても、日が差し込まないのだが、高く急峻な西側の穂高連邦には、東側の山の下から差す朝焼けの光がその頂上に、日が差し込むより先に当たる…地球規模の途方もない偶然が紡ぎだす、言ってしまえば奇跡の絶景…
なんて、壮大で幻想的で美しい…こんな景色が毎日繰り返されてるのか…ここは…
ホントに、なんて土地に二日もいたんだ…俺は
ーーーお前はよく頑張ったよ…
穂高の神様…
ーーーまだまだ、穂高の真の魅力はお預けだが…今回の旅の褒美って事でよ…土産代わりに持ってけ、この景色をな
やべえ。自分の妄想で泣きそう…
ーーー一年前より良い顔になって戻って来たな。次も楽しみにしてるぜ。俺はいつまでもここで待ってる
神様ーーー!!!!
はい。妄想終了。
しかし、本当にこのモルゲンロートを見て、前二日の苦労が全て報われた…そんな気がしました。
つづく