お、嵐も過ぎて、天気も良くなってきたで…
行ってみるか、北穂高!
↑いや、危ないってお前…
1.まだ、雲がある。
2.風が強い。
3.昨日、ほとんど寝てない。
4.朝飯も昨日のあれなみ
5.昨日の山行でかなりの体力を消費している。
6.↓小屋の右に見える沢筋を登っていくのよ…
なんか、マイナス要因が多いが…
荷物をここにおいてのピストン。
まあ、なんとかなるでしょう。
↑お前、まだ懲りてないの?
なんか、嵐を乗り切ったこと(実際、何もせず、じっとしてただけ)で
調子に乗っていたのかもしれませんねえ…
しかーし!
この時、私が考えていたのは、帰ってから涸沢ヒュッテの、おでんと生ビールのセットを頼む事ばかり、北穂高で最高の景色を見て、達成感に酔いしれた状態で最高の紅葉の中で、おでんとビール。
もう、昨日の嵐のおつりがくるってもんですよ
↑………
そんな私は……昨日のうちに山小屋でレンタルしたヘルメットをかぶり…
北穂高の登山道へと歩を進める…
涸沢がどんどん遠ざかります。
ほら、俺のテントもあんなに遠くに
↑どれだよ
当然、テントは登ってる間に風で飛ばないようにしっかりと綱をはりなおしています。
なんか、ずっと涸沢が見えるから、いくら登っても、登った気がしねえな。ほら、まだ私のテントが見える
↑どれだよ
そして、気になっていた山上の雲も少しずつ晴れてきた。
これはパーフェクトプラン達成やで
勝ったな。ガハハ!
↑もう、突っ込む気も無い…
道はと言えば、ごらんの岩場…そして、鎖場、ハシゴ場の連続する、決してぬるくない登山道…
まあ、奥穂高に登った時に比べたら、全然歩きやすかったかな。
稜線に取りつくときの長い鎖場が結構大変だったくらい
むしろ、そういう場所で他の登山者の渋滞がおきるから
それが逆にしんどい…
まあ、しんどいなりに順調に登れてた、この山道
だが……
稜線に出ると、再び雲がかかってきた。
雨と風が強くなってきて危ない、そしてーーー
一瞬、軽い眩暈を感じて足を止める。
あかん…腹減った…
↑おい…
いやー。昨日寝てねーしさー。メシとかほとんど食ってねーしさー
↑寝てない、飯食ってないアピールやめや。ってか、それ、山では命とり!
慌てて、携行食として持って来ていた、カロリーメイトとゼリー飲料を摂取する。
空腹はなんとか落ち着く。
まあ、フラフラではあるが、荷物は軽い。さっきから、雲の隙間にチラチラ山頂っぽい所が見えてる。コースタイムより随分早く山頂に付きそうだ。
おっと、雲に紛れて、少し登山道を外れてしまった。少し戻らないと…
と、二三歩戻った時…
正直、あまり覚えていない。足の底に岩の尖った所が引っ掛かったように記憶している。
とにかく、私は、この急峻な岩場で、つまずいたーーー
確実に体は一回転したーーーー
1メートルほど下で体は止まる…
幸いにも、土砂崩れになったりはしていません。
すぐに立ち上がって歩けました。
一瞬自分に起きた事が信じられず、登山道の脇に座り込みます。
俺……もしかして、今、滑落した?
↑ドアホめが…
この日、「いらないかな?」とか思いながらも山小屋で1000円払ってレンタルしたヘルメットをかぶっていました。少しですが、それの上から岩が当たった感触が確かにありました…
下手したら、頭を切って顔面流血になってた事態も考えられます。そうなったら、もう救助隊要請のレベル…
改めて、今自分のいる場所を確認する。
とたん、体中から冷や汗が噴き出す。
北穂高の標高は約3000m。涸沢は、2300mくらい。転ぶ場所が違えば、真っ逆さまだった可能性もある。
そんな場所それも風が強く雲がかかってるこの日、睡眠も栄養も充分に取らず、登ろうとしていたーー
充分な下調べの上、必要な装備をそろえて今の自分の実力でも登れる山を選んでいたつもりですが、完全に素人がやらかして、多くの人に迷惑をかける典型例
最近、いろんな山に登ってちょっと調子に乗ってた自分が恥ずかしく、情けなく、何よりしでかしたことに酷いショックを受けでしばらく、その場を動けませんでした。
とりあえず気を落ち着かせていると,体のあちらこちらが痛みだした。
まず足…右ひざをかなり強打している。そして、擦り傷だらけ…まあ長ズボンを履いていたので、流血はしていないが、逆に長ズボンを履いていたのに異常な範囲で擦り傷が広がっている。ガチでこの時、足ががくがくふるえていた。筋肉を酷使しすぎたせいもあるが、それだけ、今の状態にビビってたんだろう…
もう一度、立ち上がってみるが、捻挫、骨折は大丈夫そうだ(本当にこれだけは良かった)
しかし……
気を落ち着かせる為、ハイドレーションに手をかけた時、右手に鈍痛が走る。
あかん……右手の薬指、突き指しとる…
登頂……諦めるか
↑いや、転んだ時点で当たり前やろ
雲の向うに見えるアレが多分、北穂高山頂でしょう…
こんだけ、曇ってたら、登頂してもきっと景色は見えない…
っていう、「狐のすっぱい葡萄」理論が、登頂を諦める思いをカバーしてくれる。なんちゅー、情けない負け犬根性だ。
涸沢を出発して2時間後…多分、山頂までの5分の4は来ていたはず…
私は穂高に背を向け下山の途についた
やっと涸沢に戻ってきた…
登るのとほぼ同じ時間がかかりました。
全身傷だらけ…っていうか、右手の突き指が一番きつかった。
よく、あの岩場を降りてこれたものだよ。本当に。
穂高よ……あなたは、今回も私に何も言ってくれないのですね…
↑妄想穂高はもうええねえんで
手が充分に使えない分、足に負担がかかり、もう足取りがフラフラ…
テントに着いたら、疲労と情けなさでしばらく動けませんでした。
↑いや、結局頼むんかーい!
涸沢名物、おでんに生ビール
そして…
っていうか、なんか、山頂晴れてるんですけど!
畜生……知ってたもん!わかってたもん!
狐「せやな」
名物おでんと最高の紅葉を肴に飲むビール…ちきしょう、美味いじゃねーか…
でも、苦い…こんなに苦いビールは初めてだ…
相変わらず、何も話さない穂高さんをしり目に
私はおでんを必死にビールで胃袋に流し込んだ…